
散在流星―華やかな流星群の活動の陰に隠れて目立ちませんが、こいつの数は侮れません。試しに2001年8月、年間最大級のペルセ群が極大になる1ヶ月に私が観測した流星数を見てみましょう。
2001年8月に観測された流星数 |
流星群 |
流星の個数 |
ペルセウス座流星群 |
275個 |
散在流星 |
310個 |
なんと、散在の方が多いじゃないですか! ちなみに平均HR=13.5(HRは1時間あたりに観測される流星数)。この数は、主要群として中堅どころの流星群の極大時のHRと遜色ありません。年中無休、いつでも出ている散在流星ですが、いつも同じペースで出現しているわけではありません。というわけで、散在流星について。
■散在流星は夕方より明け方多い
散在流星が多い時間帯、それはズバリ、明け方です。雨の中、車で走っているところを想像してください。車のフロントガラスにはバシバシ雨が当たりますが、後ろ側にはあまり当たりません。このフロントガラスがいわば明け方の空、後ろ側が夕方の空に当たります。地球は自転しながら太陽の周りを公転しています。このとき、夕方には公転に対して後ろ側を、明け方には前側を向くことになります。

この辺の違いを実際のデータで見てみましょう。1999年10月のデータで比べてみます。
夜半前と夜半後の散在流星数の比較 |
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流星の個数 |
観測時間 |
HR |
最微 |
夜半前 |
46個 |
480分 |
5.8 |
5.71 |
夜半後 |
215個 |
1025分 |
12.6 |
5.99 |
ご覧の通り、最微(平均)に0.3等足らずの差があるものの、夜半後(明け方)は夜半前(夕方)の倍以上という結果になりました。
■散在流星が最も多いのは秋の明け方
さて、時間帯による変化があることは分かりました。では、季節によって変化はあるのでしょうか? 答えは、Yes です。どこから飛んでくるか分からない散在流星(の素の塵)ですが、地球が公転で進んでいる方向の真っ正面に一番多く当たることは想像できると思います。よって真っ正面に近い=地球が進んでいく方向(地球向点:この言葉、正式にあるのかな?)が天頂に近いほど、散在流星の数は多くなります。地球が進んでいく方向は太陽からほぼ90度離れた明け方の黄道上の点になります。明け方の黄道が高い時期といえば、秋です。というわけで、明け方の散在流星数は、秋に多く、春に少ないと言うことになります。
StellaNavigator Ver.6 / AstroArts Inc. / ASCII Corp.
実際のデータではどうでしょうか? 夜半後のデータで比べてみましょう。
秋と春の散在流星数の比較(明け方) |
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流星数 |
観測時間 |
HR |
最微 |
1999年11月 |
569個 |
2160分 |
15.8 |
6.14 |
2000年 5月 |
123個 |
1025分 |
9.9 |
6.02 |
秋の方が多いという結果になりましたね。というわけで、散在流星が多く見えるのは、秋の明け方。おまけにこの時期(10月〜1月)は、次から次へと流星群が活動しますので、流星を見るには良い季節です。
■散在流星が最も少ないのは春の夕方…はチト短絡
では逆に最も少なくなるのは? もっとも真後ろを向くのは夕方の黄道が高いとき、すなわち春です。
StellaNavigator Ver.6 / AstroArts Inc. / ASCII Corp.
というわけで、散在流星が最も少ないのは春の夕方…と考えるのはチト短絡のようです。というのも、こう考える前提には流星物質が「等方的に」(どの方向からも偏りなく)地球に向かってくる必要があるからです。…この辺りからだんだん空想話になってきます(←脳味噌の中で考えているだけで、実際の観測や計算に基づいていない)。
ちょっと天文を知っている人なら、「黄道光」というものを知っているでしょう。夕方の西の空や、明け方の東の空が黄道に沿ってボゥ、と帯状に明るくなっている現象です。空が非常に暗いところに行けば、夕方の黄道光が太陽の反対側にある「対日照」まで延び、明け方の黄道光につながる、黄道に沿った光の帯として見えたりもします。なぜこんな光の帯が見えるのかというと、そこには塵が多いからです。すなわち、太陽系内の塵は黄道に沿って多く分布している=黄道に沿った軌道を持っている(黄道に沿って運動している)ものが多い。

黄道に沿った軌道を持つ塵が流星になると、その輻射点は黄道沿いに位置します。というわけで、黄道付近から出てくる流星が多くなることが予想されます。いわば、黄道は散在流星の「輻射線」(←勝手な造語です)状態です。従って、「輻射線」=黄道が高い時期の方が、散在流星が多くなることが予想されます。
黄道が高くなる時期、明け方ならば、秋です。よってこの効果は、あったとしても公転方向の正面を向く効果と相乗するだけなので、流星数の多寡の傾向には影響しません。一方夕方ならば、春です。するとこの効果と後ろを向く効果とが相殺し合うことになります。よって、夕方の空では散在流星の数は、季節変化に乏しいのでは?
明け方の散在流星 |
|
地球向点 |
輻射線(黄道) |
|
秋 |
高い → 流星増 |
高い → 流星増 |
相乗 |
春 |
低い → 流星減 |
低い → 流星減 |
相乗 |
|
夕方の散在流星 |
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反地球向点 |
輻射線(黄道) |
|
秋 |
低い → 流星増 |
低い → 流星減 |
相殺 |
春 |
高い → 流星減 |
高い → 流星増 |
相殺 |
というわけで、比べてみましょう。主要群観測者な私は夕方あまり観測しないもので、数少ない夕方のデータのある1999年10月と2000年5月で比べてみます。
秋と春の散在流星数の比較(夕方) |
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流星の個数 |
観測時間 |
HR |
最微 |
1999年10月 |
46個 |
480分 |
5.8 |
5.71 |
2000年 5月 |
47個 |
470分 |
6.0 |
5.81 |
なんか、計ったようにぴったしだ…
■真夜中の黄道は散在流星の巣
ところでこの黄道光のもとになっている塵、おもに太陽系が形成されたときの残りカスです。ということで、地球や他の惑星が太陽の周りを回っているのと同じ方向に回っています。ちょっと専門的に言えば、「(低角)巡行軌道」を回っています。
巡行軌道を回っている天体は、いわば「隣の車線を同じ方向に走っている車」です。隣の車がぶつかってくるケースといえば、「いやぁっ! 寄って来ないでっ! …ガガガガガ」というわけで、横から当たってきます。

地球で言えば、太陽の反対側(と太陽)の方向からです。というわけで、「輻射線」のなかでも、真夜中の黄道付近は散在流星(の輻射点)の巣になりやすいでしょう。そういえば、真夜中の黄道付近て年中流星群ありますよねえ。そう、いわゆる黄道群です。その理由の一端は、こんなところにあるのではと思うのですが…
■明け方の地球向点も散在流星の巣
さて、いくら低角巡行軌道の塵が多いと言っても、やっぱり散在流星はいろんな方向から飛んできます。中には地球とは逆向きに回っている(=「逆行軌道」を回っている)ものもあります。
逆行軌道を回っている天体は、いわば「対向車」です。対向車がぶつかってくるケースといえば、正面衝突!

隣の車がぶつかってくる「接触事故」に比べて、衝撃(エネルギー)が非常に大きくなります。流星の場合では、明るく光ります。というわけ(+α)で、逆行軌道の流星は、もとの流星物質の数の割には多く見えることになります。ところで、+αって?
逆行軌道の流星は巡行軌道のものに比べて高速で地球にぶつかります。仮に逆行軌道のものは60km/s、巡行軌道のものは30km/sで地球にぶつかるとします。これは言い換えると、逆行軌道では1秒間に60km分の空間にある塵が、巡行軌道では30km分の空間にある塵が流星になることになります。よって、塵の空間密度が同じなら、逆行軌道は巡行軌道の2倍の流星が見えることになります。
これらの効果は、公転方向の真っ正面=地球向点に近いほど流星(の輻射点)が多くなるように作用します。さらに!流星の輻射点は、流星物質と地球の運動が合成されることにより決まりますが、その位置は地球が止まっている場合に比べ、地球向点側に引き寄せられます。というわけで、地球向点、ここも散在流星(の輻射点)の巣となりそうです。
〔L!b〕