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ポン・ウィンネッケ流星群射点位置とその移動(データはIMOによる)。 |
過去の流星群、復活! ポン・ウィンネッケ流星群(ポン・ウィンネッケ群)はもはや過去の流星群として忘れ去られていました。ところが1998年、寝耳に水の突発で復活したのです。このときの活動はHR=100以上に達しました。流星の特徴は、非常に遅い、です。輻射点はうしかい座とりゅう座の境界付近で、薄明終了時にほぼ南中していて、明け方にかけて低くなりますが、一晩中沈みません。よって、一晩中観測可能ですが、夜半前の方が条件がいいです。もっとも、2003年までは活動の見込みは薄いと思いますが…
ポン・ウィンネッケ群の母天体はその名の通り、ポン・ウィンネッケ彗星(7P/Pons-Winneche)です。この彗星は周期がだいたい6年くらいのいわゆる「木星族」の周期彗星です。木星族の彗星は木星に接近しやすいという性質を持っているため、軌道が安定しません。このため、それから発生する流星群も、毎年活動する定常群にまで進化することは難しいです。そういえば、定常群の母天体ってみんな癖のある天体ですよね。3つしかない(1998年現在)逆行軌道短周期彗星はみんな主要群の母彗星だし。
ポン・ウィンネッケ彗星と地球と木星の軌道。ポン・ウィンネッケ彗星の軌道は遠日点付近で木星の軌道に接近する。彗星は木星に接近すると木星の重力の影響(摂動)で軌道が変化してしまう。
やはり気になるのは今後の動向です。そこで、ちょっと考えてみましょう。ポン・ウィンネッケ群の過去の突発は、1916年、1921年、1927年、そして1998年に記録されています。最初の3回について、このころの母彗星の回帰記録を見てみると、1915年9月、1921年6月、1927年6月に回帰しています。つまり、母彗星が回帰したときに活動する「周期群」だったことがわかります。しかし、1927年を最後にポン・ウィンネッケ群の活動は途絶えてしまいました。この理由は、彗星の軌道にあります。1927年の回帰まで、ポン・ウィンネッケ彗星の軌道は、近日点距離(太陽に最も近づいた時の距離)がおよそ1天文単位(AU:太陽と地球の平均距離)ほどで、彗星の軌道と地球の軌道が非常に近づく関係にありました。しかしその後、彗星は木星に接近、地球にあまり近づかない軌道に変化してしまいました。このため、流星物質も地球に近づかなくなってしまったのです。
19世紀後半から20世紀前半にかけてポンウィンネッケ彗星は、木星の重力の影響を受けて徐々に軌道が変化していった。その間、1920〜1930年ごろにかけて彗星は地球軌道によく接近する軌道にあった。
では、1998年の活動はどうして起こったのか? まず、最近の母彗星の回帰記録を見てみると、1996年1月、2002年5月に回帰しています。さらに、これらの回帰時の近日点距離は約1.26AUで、地球軌道に近づきません。ということは、1998年の活動は、母彗星の回帰によるものではないことがわかります。ならば、過去に放出された流星物質が、摂動により再び地球にぶつかる軌道に乗る場合を考えてみましょう。ポン・ウィンネッケ群の流星物質に摂動を与える要因は、なんと言っても木星です。そこで、現在のポン・ウィンネッケ彗星の軌道上にある流星物質が、木星に接近し、再び地球軌道に接近する場合を考えます。当然、彗星軌道のそばに木星がいないといけないので、その時期は限定されます。最近ですと、1989〜90年になります。とりあえず、90年初頭としておきましょう。木星によって軌道が変えられてから、近日点(地球軌道付近)までやってくるのに、彗星の周期が6.37年ということで、片道3年(実際には遠日点を過ぎてから木星に接近しているので、2.5年てとこでしょうか)です。すると、1992年辺りに一旦地球に接近することになります(ン?92年に出現したなんて話、聞いた覚えないなぁ)。さらにもう1周すると(この間、木星には接近しない)、1998年ということになります。というわけで、うまい具合に1998年の出現が説明できます。
1990年のはじめごろポン・ウィンネッケ彗星の軌道に木星が接近した。このとき彗星本体は、木星から離れた場所にいるので木星の重力の影響は受けないが、彗星の軌道上に広がっていた流星物質の一部が木星の重力の影響を受けて地球軌道と交差する軌道に変化した可能性がある。
で、今後ですが、上のような考え方をすれば、もう1周した2004年に出現があるかもしれません。さらに、2001〜2年にはまた、木星が彗星軌道に接近するので、これまた2004年、さらには2010年に出現があるかもしれません。ということで、今後も6の倍数の年に要注意!?
〔L!b〕